国際機関の見解はどうですか?

国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)では・・・

国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP*1)では、世界保健機関(WHO)の電磁界ばく露の健康リスクの評価結果(後述)を受けて、2010年に1Hzから100kHzまでの時間変化する電界、磁界、電磁界に対して短期的なばく露影響から一般の人と労働者を防護するガイドラインを設定しています。このガイドラインでは、商用周波電磁界に関するばく露制限値を設定しており、その値は、電磁界によって引き起こされる磁気閃光や中枢および末梢の神経への刺激を根拠として、刺激作用によって健康に悪影響(刺激作用:「科学的に立証されている人への影響(短期的ばく露影響)」参照)が起こる値より十分に低い値に設定されています。

なお、発がん等を含む長期的な影響に関しては、小児白血病との関連を示唆する疫学研究結果を尊重する必要性を認めながらも、磁界と小児白血病の因果関係は確立されておらず、また、その他のいかなる長期的影響も確立されていないことを根拠に、ガイドラインでこの影響を取り扱うことができないと判断しています。

*1 国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)は非電離放射線からの人体及び環境の防護の推進、特に非電離放射線からの人体の防護に関するガイドラインと勧告を提供することを目的として1992年に設立された中立的な国際組織です。ICNIRPのガイドラインは各国政府に対し強制力を持つものではありませんが、各国の専門家が参加した保健衛生の立場からの評価として、世界各国の防護指針やガイドライン作成に大きな影響力をもっています。(http://icnirp.org/

ICNIRPガイドラインによる一般の人へのばく露制限値(参考レベル)

ICNIRPガイドラインによるばく露制限値

世界保健機関(WHO)では・・・

国連の一機関であるWHO(世界保健機関)は1996年5月に国際電磁界プロジェクト(International EMF Project)を発足させました。プロジェクトの目的は、電磁界ばく露の健康リスクを評価することです。我が国も参加しています。

なお、WHOでは超低周波電磁界(0〜300Hz)について評価しており、ここで主に扱う商用周波電磁界(50/60Hz)が含まれています。

WHO国際電磁界プロジェクト

国際電磁界プロジェクトの1つとして、WHOの付属機関である国際がん研究機関(IARC*2)は、、2002年に超低周波電磁界の人への発がん性を評価したモノグラフ第80巻を発刊しました。そして、超低周波磁界は「人にとって発がん性があるかもしれない(グループ2B)」、超低周波電界は「人への発がん性に関して分類できない(グループ3)」と判断しました。

IARCの発がん性評価は、その物質や環境ががんの原因となるかを分類したものであり、がんになりやすさを評価したものではありません。ここでの評価の手順は、まず、人における疫学研究結果(証拠)をもとに発がん性があるかどうか評価します。証拠が限定的であったり、不十分な場合は、生物学的研究結果(証拠)をもとに総合的に発がん性を分類します。発がん性は5段階に分類されます(次表参照)。

*2国際がん研究機関(IARC)はがんに関するさまざまな研究を行うために1969年に発足した国際組織です。その活動の一つとして、化学物質の発がん性に関する分類があります。現在では、個々の化学物質にのみならず、混合物や放射線、ウイルスなどの化学物質でないものや労働環境も評価しています。(http://www.iarc.fr/en

IARCによる発がん性分類

IARCによる発がん性分類

注1) 分類基準は代表的なものです。
注2) 表中の分類結果は2011年6月17日時点のものです。

2005年10月にWHOは、低周波(100kHzまで)電磁界の健康リスクを評価するために、専門家による「タスクグループ」を招集しました。タスクグループは、IARCモノグラフ第80巻を含め、これまで発表された膨大な科学論文のレビューを行い、その見解を「環境保健クライテリア(EHC)モノグラフNo.238(WHO, 2007)」として、2007年6月に発刊しました。
WHOは、このEHCに基づいて「ファクトシートNo.322 超低周波の電界及び磁界へのばく露」を発表し、以下のように健康リスク評価を行っています。
環境省では「超低周波電磁界に関する環境保健クライテリア(2007)」を日本語に翻訳しています。(http://www.env.go.jp/chemi/electric/material/ehc238_j/index.html

WHOの健康リスクの評価の概要(ファクトシートNo.322)
  • 一般環境レベルの超低周波電界に関する本質的な健康上の論点はない。
  • IARCの超低周波磁界が「ヒトに対して発がん性があるかもしれない」との見解を変更しない。
  • 全体として、小児白血病に関連する証拠は因果関係と見なせるほど強いものではない。
    • 疫学的証拠は、潜在的な選択バイアス等の問題がある。
    • 大多数の動物研究では影響は示されていない。
    • がん進展に関係して、受け入れられている生物物理学的メカニズムはない。
  • その他の健康への悪影響(白血病以外の小児がん、成人のがん、うつ病、自殺、心臓血管系疾患、生殖機能障害、発育異常、免疫学的変異、神経行動への影響、神経変性疾患)と、超低周波磁界ばく露との関連性を支持する科学的証拠は、小児白血病についての証拠よりも更に弱い。

健康リスクの評価に基づき「WHOのガイダンス」としてまとめられ、各国の政府機関や産業界に対し、以下のように提言しています。

WHOのガイダンスの概要(ファクトシートNo.322)
  • 高レベルの短期的ばく露にともなう健康影響は科学的に確立されているので、政策決定者は、労働者や一般人をこれらの影響から防護する国際的なばく露ガイドラインを採用すべきです。ばく露レベルがガイドラインの限度値を越えないように監視することも必要です。
  • 長期的影響に関しては、超低周波磁界ばく露と小児白血病との関連性の証拠が弱いことから、ばく露低減によって健康上の便益があるかどうか不明です。こうした状況から、以下を推奨します。

  1. 政府及び産業界は、電磁界ばく露の健康影響を解明するための研究プログラムを推進すべきです。
  2. 加盟各国は、全ての利害関係者との効果的で開かれたリスクコミュニケーション・プログラムを構築することが推奨されます。
  3. 新たな設備を建設する、または新たな装置(電気製品を含む)を設計する際には、ばく露低減のための低費用の方法を探索しても良いでしょう。但し、恣意的に低いばく露限度の採用に基づく政策は是認されません。

WHOでは、この他にもさまざまな電磁界の健康リスクへのWHOの見解を一般の人向けに、ファクトシート(Fact Sheet)として発表しています。これらの資料は日本語にも翻訳されています。
http://www.who.int/peh-emf/publications/facts/factsheets/en/index.html